この記事では、心理学系の学習経験や実務経験の一切ない未経験の社会人が、産業カウンセラーの資格を取得するためには、いったいどのようなルートをたどればいいのか、また最短期間・最安金額で取得するにはどうすればよいのか解説します。
社会人でこれから産業カウンセラーを目指そうと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
なお、本記事の内容はすべて、2020年2月現在のJAICO(日本産業カウンセラー協会)に記載の情報をもとにしています。
産業カウンセラーとは
まずは、資格の取得方法を説明する前に産業カウンセラーという資格について簡単にまとめます。
「人を尊重して企業を元気にする」カウンセラーのこと
産業カウンセラーは、職業名ではなく、日本産業カウンセラー協会が認定する民間資格のことです。
JAICOの倫理要綱によれば産業カウンセラーとは、「人間尊重を基本理念として個人の尊厳と人格を最大限に尊重し、深い信頼関係を築いて勤労者に役立つことを使命とする」資格であり、「勤労者の上質な職業人生(QWL:Quality of Working Life)の実現を支援」するものとあります。

ちょっと分かりづらいので、「人を尊重して」「企業や組織を元気にする」カウンセラーのこと、と考えておけばおおむね間違いありません。
取得するメリットは「仕事がある」「人の役に立てる」の2点
産業カウンセラーを取得する大きなメリットは2つです。
まず1つは、心理系資格としては希少なきちんと求人のある資格である点、もう1つは、傾聴などのカウンセリング基本スキルを修得することにより、幅広く人の役に立つ活動ができるようになるという点です。
特に求人に関しては、ときには公認心理師・臨床心理士といった信頼性の高い資格と同列に応募資格として認められることもあるなど、非常に認知度と期待値の高い資格と言えるでしょう。
他の資格との違い
産業カウンセラーには類似の資格がいくつかあります。それぞれとの違いについても押さえておきましょう。
国家資格であるキャリアコンサルタント
産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの主な違いは次の通り。
- 産業カウンセラー:従来のカウンセリング業務に加え、現場での行動力なども求められる
- キャリアコンサルタント:カウンセリングの域に留まらず個々人のキャリア形成や能力向上まで支援
なお近年は産業カウンセラーの類似資格でありながら国家資格であるキャリアコンサルタントに注目が集まっていますが、民間資格と国家資格の差でキャリアコンサルタントの方が難易度や格式が上かというとそうとも限りません。
受験者の声を見ると、中には産業カウンセラーには落ちたけれどキャリアコンサルタントには受かったという人も実際にいるようです。
産業カウンセラーの上位資格であるシニア産業カウンセラー
産業カウンセラーには、上位資格となるシニア産業カウンセラーという資格が設けられています。
- 産業カウンセラー:カウンセラーとしての基本姿勢の修得&自己理解の深まりを目的とする傾向が強い
- シニア産業カウンセラー:組織体制づくりや風土改革などの課題も総合的に取り扱う
産業カウンセラーとして話を聞くだけでなく、実際の現場で組織づくりに関わっていきたいとお考えの方は、ぜひシニア産業カウンセラー取得まで目指してみてはいかがでしょう。
受験資格には「講座の受講」or「特定単位の修了」が必須
産業カウンセラーを取得するためには、まず受験資格を得る必要があります。
受験資格として認められる条件は次の2つ。いずれかを満たすと、産業カウンセラー試験を受けられるようになります。
- 20歳以上で産業カウンセラー養成講座を受講・修了した人
- 大学院で特定単位を修了した人(社会人としての職務経験も加味)
大学院ですでに心理系学科を修了している方は、ぜひ②の条件で受験資格が得られないかチェックしてみてください。
- 大学院研究科において心理学又は心理学隣接諸科学、人間科学、人間関係学のいずれ かの名称を冠する専攻(課程)の修了者であって、協会が定めるA群からG群までの 科目において、1科目を2単位以内として10科目以上、20単位以上を取得してい ることを要する。ただし、D群からG群の科目による取得単位は6単位以内とする。 大学での履修単位を合算することも可能とし、その場合の大学での履修は、3科目以 内6単位以内とする。
- 社会人として週3日以上の職業経験(*1)を通算3年以上有し、大学院研究科におい て心理学又は心理学隣接諸科学、人間科学、人間関係学のいずれかの名称を冠する専 攻(課程)の修了者であって、協会が定めるA群からG群までの科目において、1科 目を2単位以内として4科目以上、8単位以上を取得していることを要する。 (*1)職業経験とは、雇用形態を問わずすべての職業経験をいう。(契約社員、派遣 社員、パート、アルバイト等を含む)
- 科目群は以下のとおりとする。
A群:産業カウンセリング概論,カウンセリングの基本、カウンセリングの理論と方 法などの科目群などの科目群
B群:カウンセリング演習、カウンセリング実習などの科目群
C群:こころとからだのメカニズム、パーソナリティ心理学、心理アセスメントなど の科目群
D群:キャリア・カウンセリング、キャリア概論などの科目群
E群:産業・組織心理学、人事労務管理などの科目群
F群:労働法令の科目群
G群:職場のメンタルヘルス、精神医学などの科目群

本記事では、あくまでも「未経験」からの産業カウンセラー資格取得を目指すことが前提のため、産業カウンセラー養成講座を受ける想定で進めていきます。
産業カウンセラー養成講座とは
続いて、産業カウンセラー試験の受験資格を得られる産業カウンセラー養成講座について、詳細を見ていきましょう。
カウンセリングの基本姿勢や「傾聴」について実践的に学べる
産業カウンセラー養成講座は、産業カウンセラー資格を認定するJAICOが開催する産業カウンセラーを養成するための講座です。
その内容は、「カウンセラーとしての基本姿勢を学習・修得することのできる」講座で、人間尊重・傾聴・カウンセリングの実際のプロセス、といったカウンセリングの基本をいちから学ぶことができます。

根底にある「傾聴」を学習することを重視していることが、JAICOの公式ページからもうかがえますね。
費用は一律29.7万円で期間は「6ヵ月」か「10ヵ月」から選べる
産業カウンセラー養成講座には「6ヵ月コース」と「10ヵ月コース」があるのですが、この違いは、スケジュールのみ。講座内容や受講料は同じであることが公式サイトにも明記されています。
6ヵ月コースと10ヵ月コースの比較(2020年上期)
6ヵ月コース | 10ヵ月コース | |
受講期間 | 2020年5月~10月 | 2020年1月~10月 |
試験受験時期 | 2021年1月 | 同左 |
通学 | ・面接の体験学習 15~16日間(104時間) ・ライブ理論講義 2日間(12時間) | 同左 |
e-Learning | ・Web配信講義視聴 32時間相当 ・理解度確認テスト 13時間相当 | 同左 |
ホームワーク | ・面接の体験学習に関する在宅課題6課題 28時間相当 | 同左 |
講座開講日 | ・土曜、日曜、平日コース ・通学回数は17~18回 | ・土曜、日曜、平日、平日夜間コース ・通学回数は昼間で17~18回、夜間で33~36回 |
講座申込受付時期 | 2020年2月~ | 2019年10月~ |

以前は通信制と通学制でもコースが分かれていたのですが、2019年以降はe-learning制のみの募集となり、かなりシンプルな比較となりました。
「実技能力評価制度」により体験学習にも身が入りやすい
産業カウンセラー養成講座では、実技能力評価制度を取り入れているため、体験学習での実践の場も、すべて試験に近い緊張感で臨むことができます。
実技能力評価制度とは、講座中に実技能力が一定水準に達していると認められた際に本試験の実技試験合格に相当させることができる、というもので、試験だけではカバーしきれない実技能力を正当に評価するための制度です。

「試験さえがんばればいいのでは?」「実践といってもあくまでも練習なのであまり学びがないのでは?」という方でも安心して取り組みやすい制度と言えるのではないでしょうか。
受講費用は「教育訓練給付制度」により還付も可能
産業カウンセラー養成講座は教育訓練給付制度の指定講座に認められているため、条件を満たしていれば費用の一部を給付金として還付してもらうことができます。
主な条件は次の通りです。受講前にしっかり確認しておきましょう。
- 今までに3年以上雇用保険に入っている正社員
- 退職者のうち、退職日から受講開始日までが1年以内かつ今までに3年以上雇用保険に入っていた人
(1)雇用保険の一般被保険者(在職者)の場合
指定講座の受講を開始した日(以下「受講開始日」という)において雇用保険の一般被保険者である方のうち、支給要件期間(被保険者期間)が3年以上ある方。
初回に限り、被保険者期間1年以上で受給が可能です。
(2)雇用保険の一般被保険者であった方(離職者)の場合
受講開始日において一般被保険者でない方のうち、一般被保険者資格を喪失した日(離職日の翌日)以降、受講開始日までが1年以内(適用対象期間の延長が行われた場合には最大4年以内)であり、かつ支給要件期間(被保険者期間)が3年以上ある方。
(注)一般被保険者の方は、65歳の誕生日の前日に一般被保険者でなくなり、高年齢継続被保険者として資格が切り替ります。このため、受講開始日が66歳の誕生日の前日以降にある場合は支給対象になりません(適用対象期間の延長が行われた場合を除く)。

なお還付される金額は受講費用の20%(上限10万円)のため、産業カウンセラー養成講座の場合は297000×20%=59400円が給付される計算になりますね。
講座の説明会&無料体験を全国各地で開催中
産業カウンセラー養成講座は、全国各地で説明会や無料体験を開催しています。
直近のスケジュール以外は明記されていませんので、最寄りの会場で開催の予定があるかどうか、電話やメールで問い合わせてみることをおすすめします。
また、その他の項目も含めた産業カウンセラー養成講座の詳細に関しては、下記表や公式ホームページをご確認ください。
講座期間
講座期間:6か月または10か月
上期6か月コース/5月~10 月〔受講申込み受付2月~〕
下期6か月コース/11 月~翌年 4 月〔受講申込み受付8月~〕
10か月コース/1月~10月〔受講申込み受付前年10月~〕
*いずれのコースも講座内容は同じです。
*下期6か月コースおよび10か月コースは開催しない地域もあります。
講座内容
1. 面接の体験学習 昼間コース:15~16日間、夜間コース:33~36日(いずれも104時間)通学
2. ライブ理論講義 2日間(12時間)通学
3. Web配信講義視聴 32時間相当 e-Learning
4. 理解度確認テスト 13時間相当 e-Learning
5. 実習に関する在宅課題6課題 28時間相当 ホームワーク
理論科目
1. カウンセリングとは何か * 2. 傾聴の意義と技法 * 3. カウンセリングのプロセスとトレーニング * 4. 産業カウンセラーと産業カウンセリングのあゆみ * 5. カウンセリング理論の源流とその発展 6. カウンセリングのさまざまな理論と方法 7. こころとからだのメカニズム 8. パーソナリティ心理学と心理アセスメント 9. 精神医学の基本 10. 産業組織の心理学 11. コミュニケーションの基本 * 12. 職場におけるメンタルヘルス対策への支援 * 13. 産業社会の動向と働く意識の変化 14. 人事労務管理の基礎知識と人材マネジメントの現状 15. 労働法規の基本 16. 社会福祉関連法 17. 職場における人間関係開発・職場環境改善への支援 18. キャリア形成への支援 19. コンプライアンスと倫理 |
◇ 講義動画視聴と理解度確認テストの実施により学習します。 |
◇ *印の科目は、通学のライブ理論講義と理解度確認テストの実施です。 |
◇ 使用テキスト『産業カウンセリング―産業カウンセラー養成講座テキスト』Ⅰ・Ⅱ(2分冊) |
講師
大学教授、産業カウンセリングの実践者などです。
修了要件
(1) | 通学(面接の体験学習と一部理論科目の講義)116時間中101時間以上出席すること *やむを得ない事情で101時間以上出席できない場合、 24時間(4日)以内に限り補講を受講することができます(受講料が別途かかります)。 |
(2) | 理解度確認テスト各科目において6割以上正答すること |
(3) | 面接の体験学習に関する課題学習のうち4課題について、ABCD4段階評価においてAまたはBの評価を受けること |
実技能力評価制度
当講座の面接の体験学習で一定の成績に達した場合、その結果を産業カウンセラー試験の実技試験合格に相当させることができます(別途手続きが必要となります)。産業カウンセラーの資格認定について、限られた時間の試験だけで能力や適性を評価するのではなく、研修プロセスを重視した判定を行うための制度です。
受講料
297,000円(教材費、消費税込)
*支払方法は、一括して指定口座への振込み、または学費ローン利用となります。
*各種割引制度があります。最寄りの当協会支部にお問い合わせください。
*やむをえずキャンセルされる場合の返金等は、当協会規程によります。
お申込み先
最寄りの当協会支部 | |
* | お申込みに際しては、「受講約款」「個人情報のお取扱いについて」をよくお読みいただき同意のうえお手続きしてください。 |
教育訓練給付制度
産業カウンセラー養成講座は教育訓練給付制度一般教育訓練指定講座です。
6か月コース明示書
10か月コース明示書
ご自身の受給資格の有無等につきましては、ハローワークにお問い合わせください。
産業カウンセラー試験の概要
産業カウンセラー養成講座を経て受験資格を得たら、いよいよ産業カウンセラーの試験です。
受験費用は「受験料+資格登録料+合格後の登録料=40000円」
産業カウンセラー試験を受験するために必要となる費用は、
- 学科試験:11,000円(税込)
- 実技試験:22,000円(税込)
この2つに加えて、合格した場合、資格登録料としてさらに7,000円必要です。
2020年度の試験スケジュールや会場については情報なし
2020年度の試験日程や会場情報などは、2020年2月現在は見当たりませんでした。
すくなくとも養成講座の開催地すべてで試験が実施されているわけではないようですので、講座受講前に確かめておきたい方は、最寄りの試験開催地などを確認しておくことをおすすめします。
合格率は学科・実技総合で64.2%と低くない水準
産業カウンセラー試験の難易度はどの程度かというと、誰でも一発で受かるレベルではないけれど何度もチャレンジすれば決して取れない資格ではない、といったところです。
2018年度の合格率を見ると、学科試験合格率が72%、実技試験合格率が67.4%となっており、総合では64.2%とそう低くはない水準。
実際に何度か不合格になったという方の声を見ると、「特に実技試験に関しては落ちた理由が明確でないのでつらかった」というものがありますが、2回3回とチャレンジすることでほとんどの方が合格できているようです。
なおとにかく最短で、できるだけ一発で合格したいという方は、養成講座とは別に、試験対策用の講座で勉強するというのもひとつの手。
有料のものもありますが、下記のように無料で学習範囲をまとめているサイトも多く、中にはオリジナルの演習問題を提供しているものもあります。


ぜひこういった先達の知恵を借りて最短合格を目指しましょう。
産業カウンセラー取得まで&その後の維持にかかる費用と時間
以上が、産業カウンセラー取得までのステップでした。
ここまでの内容のまとめとして、産業カウンセラー資格取得までにかかる費用と時間を改めて整理してみましょう。
産業カウンセラー養成講座:29.7万円
受験料+登録料:4万円
教育訓練給付金:約6万円
費用計:33.7万ー6万=27.7万円
期間:最短6ヵ月~
まとめ:産業カウンセラーは「公認心理師や臨床心理士はハードルが高い」と感じている人におすすめ
心理学系の学習経験や実務経験の一切ない社会人が、産業カウンセラーの資格を取得するためにはどうすればよいか、まとめて解説しました。
産業カウンセラーは類似資格と比べてもネームバリューがあり、その信頼性やニーズの高さを考えるとかなり短い期間と少ない費用で取れる資格と言えます。
公認心理師や臨床心理士はハードルが高いけれど、通信講座で格安で取れる資格ではさすがにちょっと……と考えている人にこそおすすめの資格と言えるのではないでしょうか。
なお、各資格の詳細に関しては下記記事も参考にしてください。
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