いざ1on1を導入しても、そもそも何からやっていいかよくわからない。すでにやり始めているけれど、本当にこれであっているのかよくわからない。
そんな方へ向けて今回は、1on1を2年間運用した筆者が、1on1の基本的なやり方について解説します。
導入・運用・改善のプロセスに沿って解説していきますので、いま必要だと感じる部分に注目してみてください。
1on1とは
1on1のやり方を解説する前に、まずは1on1とは何かについて簡単にご説明しておきます。
1on1ミーティングとは、部下と上司が1対1(1on1)で行うミーティングのことです。
1on1が実施される目的は大きく分けて3つあります。
- 部下の成長
- マネジメント層の現場の把握
- 人材の定着
評価面談などとの大きな違いは、1on1ミーティングではあくまでも部下が主役であり、上司・マネージャーの立場にある人間は、部下のサポートに徹するという点です。
1on1の基本的なやり方
それでは1on1の基本的な流れについて、導入~運用~改善のプロセスに沿ってそれぞれ見ていきましょう。
導入プロセス
導入段階では、目的・ルール・スケジュールの共有と徹底が肝心です。
目的のすり合わせと周知
成長が目的なら、成長が目的と断言すること。よくあるのが、「1on1をやるとこういう効果があるので導入します」で導入してしまうパターンです。
これでは伝わりません。
「1on1によって、社員一人一人が成長することを期待している」なら、そうはっきり断言しましょう。
そうすることで、「1on1をやる時間があるなら個々人の作業に集中した方が成長に繋がると思います」「いや1on1をしたほうが成長に繋がる」という議論が生まれます。
議論が生まれないと、納得感が生まれません。納得しないと、自分ごととして力がそそげなくなってしまいます。
上記のケースで言えば、「1on1をやるよりも作業に集中した方が成長に繋がる」と考えている社員は、「スキル面での成長」を望んでいるわけです。
一方「1on1のほうが成長に繋がる」と考える企業側は、果たしてどんな成長を社員に望んでいるのでしょうか?
導入前にきちんと考えていなかったという場合は、導入した後でも遅くありませんので、ぜひ明文化して共有してください。
最低限のルールの共有
上司は部下の話を遮らないこと。命令しないこと。評価しないこと。などなど、1on1において最低限のルールはきちんと言葉にして共有しましょう。
こちらもよくある失敗としては、「上司までは共有したけれど部下まで共有していない」というケースです。
上司が認識しているだけでは意味がありません。最低限のルールは、明文化して全社に共有しましょう。
全員が共有することによって、部下から上司に「それはルール違反です」と伝えやすくなるのです。
スケジュールの確保と徹底
1on1の予定は、できれば社内で共有するカレンダーなどにすべて入れておきましょう。
このとき合わせて、実施する場所も決めておきたいところ。本来は社内の会議室は1on1に適さないとされていますが、場所が変更になるリスクがないのであればそれでも構いません。
もちろんカフェなど社外で実施できるなら、それに越したことはないですよ。
ともかく、事前に予定を決めて、一度決めた予定はよほどのことがない限り変更しないという徹底が大切です。
1on1は毎週か隔週で運用するものなので、その都度予定を変更していると相当なコストがかかってしまいます。
スケジュールは、可能な範囲で変えずにすむようできるだけ考えぬいてください。全社員にとって都合のいいスケジュールを組むためだけに1日研修を組んでもいいくらいです。
それぐらいの覚悟が必要です。
運用プロセス
導入が済んだら、続いて運用です。
運用プロセスでは、初期導入をいかにスムーズにして、いち早く本来の目的である1対1の話し合いに集中できる環境を作れるかが成否を分けます。
資料は事前に準備・共有すること
近年はHR分野などで1on1向けのツールが提供される機会も増えましたが、試しに1on1を導入してみたいという企業にとっては、そこにコストをかけるのはちょっとためらうところだと思います。
実際に使った印象としても、「1on1ツールがなければできないこと」は非常に少ないので、まずはGoogleドキュメントなどで閲覧権限を調整しながら運用するのでも十分です。
大事なことは、やっていくうちに運用の体勢は変わるはずなので、初めから1on1シートを作り込みすぎない、ということ。
- 先週やったこと
- 今週やること
- いま悩んでいること
大まかに、この程度のトピックがあれば十分です。事前に部下に書いてもらい、上司はその資料に目を通したうえで、1on1に臨みます。
1on1の目的によっては、そもそも1on1の内容を無理に残そうとしなくてもいいでしょう。
そもそもミーティングの内容を克明に記録するのは非常に難しいので、信頼関係構築などが目的であるうちは、重要なのは話し合いの記録よりも満足感です。
目安となるアジェンダを用意すること
1on1は必ずしも型にはめる必要はありませんが、「部下のための時間だよ!」といくら言ったところで、部下のほうが「特に話すことがありません」となってしまえばおしまい。
次から次へ話したいことがたくさんあって仕方がない!となればもう型を守る必要はありませんが、「そもそも何から話していいか分からない」という段階においては、アジェンダはやはり有効です。
まずは事前に用意してもらった資料にいっしょに目を通し、現在悩んでいることが解消されるところまでは完全に型にはめてしまいましょう。
そのうえで、時間があまれば雑談に興じる。それくらいのバランスで考えておけば、さほど無理なく1on1を運用していくことができるはずです。
行動計画は具体的な日時まで落とし込む
特に新人教育などの補助として1on1を用いる場合は、1on1の場が新入社員にとってかなり重要な決定を下す場になります。
先週の動き方や今週の動き方について、部下と上司がいっしょに考える、といったケースでは、必ず具体的な日時まで落とし込めるように誘導してあげてください。
方針を決めただけでは結局動けないことも多いですし、数字がはっきりしない段階では翌週の1on1で「なぜ動けなかったか」を話し合うのも一苦労です。
行動計画を具体的な日時まで落とし込むことで、「なぜ失敗したか」「なぜ成功したか」を考えやすくなります。
改善プロセス
運用し始めてしばらく経ったら、さらなる改善のために行うべきことがいくつかあります。
半期・四半期などでアンケートをとる
まず、3ヵ月か6ヵ月経過した段階で、1on1を運用してみた実感についてアンケートを取りましょう。
満足しているか、していないか、その理由はなぜか。
細かい設問を作ってもいいですが、シンプルな設問でも一向に構いません。大切なことは、アンケートに集中するための業務時間を確保することです。
「空いた時間にやっておいて」ではまともな声が得られませんので、気を付けましょう。
当初の目的のすり合わせを都度行う
「1on1を成長の場として使ってほしい」といった目的のすり合わせは何度でも行いましょう。
これについては、特に3ヵ月や6ヵ月など期間を気にせず、全体に何か周知するタイミングがあれば合わせて伝えていった方がよいです。
ただし、「1on1を始めてからこんな風によくなった」といった、1on1自体の効果について評価する必要はありません
傾聴的姿勢の再周知
1on1をやっていくうちに、「効果が感じられない」「やりたくない」という不満の声が挙がることがあります。
こうした場合は、まず傾聴的姿勢の再周知を行い、話し合いが円滑に進むよう計らいましょう。
傾聴的姿勢を示す行動とは、たとえば次のようなものです。
- 対面でなく隣に座る
- 1on1をしている間は端末を開かない
- 少し大げさに頷く
上記の内容を最初から指定してしまうとマネージャーの独自性が損なわれるので、この点を周知するのは「不満が出てから」のほうがいいと思い、今回は改善プロセスとしました。
なかにはパソコンを開きながらでもうまく話を聞けるマネージャーもいるでしょうし、その場でメモを取ることが必要なケースもあるでしょうから。
ただ、不満が上がってきたのならこうした基本的な行動から見直していくべきです。
まとめ:やめる決断は早めに
以上が、1on1の基本的なやり方です。
特に1on1がうまく回っていない企業では、そもそもこのプロセスに沿っていないことが多いのではないでしょうか。
たとえば導入段階で十分な認識共有がなされていなかったり、一度決めたスケジュールに強制力があまりなかったり、運用のルールが定まっていなかったりなどなど。
いざ始めてみたものの、思うとおりに運用するのが難しい。そうなったときには、ぜひ恐れずにやめる決断をしてください。
十分なケアがままならないままやり続けると、かえって溝を深めることに繋がりかねません。人と人の対話を強制するというのは、それくらい諸刃の剣なのです。